何にも好奇心に馳られたらしく身を乗り出した。すると青年も、何かしら急に気まりが悪くなったらしく、ハンカチ[#「ハンカチ」は太字]で顔を拭いまわしながらうなずいた。
「そうなんです……私は、私が関係しておりました長い間の訴訟事件が、今すこし前にヤットの事で確定すると同時に顎を外してしまったのです。……否……私ばかりではありません。恐らく世界中のどなたでも、私と同様の運命に立たれましたならば、顎を外さずにはいられないであろうと思われる出来事に出合ったので御座います」
「ハハア――ッ」
とドクトル[#「ドクトル」は太字]はいよいよ面喰らった顔になった。小さな眼をパチパチさせながら身を乗り出して、椅子の端からズリ落ちそうになった。
「ヘエエエッ。それはイヨイヨ奇妙なお話ですナ。法廷といえば教会と同様に、この地上に於ける最も厳粛な、静かな処であるべき筈ですが……そんナ処で顎を外されるような場合があり得ますかナ」
「ありますとも……」
と青年は断然たる口調で答えた。
「……この私が何よりの証拠です。……もっともこんな事は滅多にあるものではないと思いますが……」
「なるほど……それは後学のために
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