ンと何か割れた音
イヒヽヽヽヽ
……と……俺が笑ふ声
白い乳を出させようとて
タンポヽを引き切る気持ち
彼女の腕を見る
棺の中で
死人がそつと欠伸《あくび》した
その時和尚が咳払ひした
抱きしめる
その瞬間にいつも思ふ
あの泥沼の底の白骨
ニセ物のパスで
電車に乗つてみる
超人らしいステキな気持ち
青空の隅から
ジツト眼をあけて
俺の所業を睨んでゐる奴
自転車の死骸が
空地に積んである
乗つてゐた奴の死骸も共に
闇の中から血まみれの猿が
ヨロ/\とよろめきかゝる
俺の良心
監獄に
はいらぬ前も出た後も
同じ青空に同じ日が照つてゐる
白い蝶が線路を遠く横切つて
汽車がゴーと過ぎて
血まみれの恋が残る
見てはならぬものを見てゐる
吾が姿をニヤリと笑つて
ふり向いて見る
真夜中に
心臓が一寸休止する
その時にこはい夢を見るのだ
枕元の花に薬をそゝぎかけて
ほゝゑむでねむる
肺病の娘
倉の壁の木の葉が
幽霊の形になつて
生血がしたゝる心臓が
切り出されたまゝ
* * *
けふも沖が
あんなに青く透いてゐる
誰か
前へ
次へ
全19ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング