/\煙突にのぼり行く人を
落ちればいゝがと
街路から祈る
殺すぞ!
と云へばどうぞとほゝゑみぬ
其時フツと殺す気になりぬ
人の来て
世間話をする事が
何か腹立たしく殺し度くなりぬ
今のわが恐ろしき心知るごとく
ストーブの焔
くづれ落つるも
ピストルのバネの手ざはり
やるせなや
街のあかりに霧のふるとき
ぬす人の心を抱きて
大なる煉瓦の家に
宿直をする
かゝる時
人を殺して酒飲みて女からかふ
偉人をうらやむ
人体のいづくに針を刺したらば
即死せむかと
医師に問ひてみる
春の夜の電柱に
身を寄せて思ふ
人を殺した人のまごゝろ
殺しておいて瞼をそつと閉ぢて遣る
そんな心恋し
こがらしの音
ピストルの煙の
にほひばかりでは何か物足らず
手品を見てゐる
ペンナイフ
何時までも銹《さ》びず失くならず
その死にがほの思ひ出と共に
* * *
一番に線香を立てに来た奴が
俺を…………
………と云うて息を引き取る
若い医者が
俺の生命を預つたと云うて
ニヤリと笑ひ腐つた
だしぬけに
血みどろの俺にぶつかつた
あの横路地のくら暗の中で
頭の中でピチ
前へ
次へ
全19ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング