、彼をジイッと見守っているように思われて来る。足の下の枯葉がプチプチと微《かす》かな音を立てて、何となく薄気味が悪くなる位であった。
そんな処を見付けると彼は大喜びで、その空地の中央の枯草に寝ころんで、大好きな数学の本を拡げて、六ヶ《むずか》しい問題の解き方を考えるのであった。むろん鉛筆もノートも無しに空間で考えるので、解き方がわかると、あとは暗算で答を出すだけであったが、両親から呼ばれる気づかいは無いし、隣近所の物音も聞こえないのだから、頭の中が硝子《がらす》のように澄み切って来る。それにつれて家《うち》ではどうしても解けなかった問題が、スラスラと他愛《たあい》もなく解けて行くので、彼はトテモ愉快な気持になって時間の経《た》つのを忘れていることが多かった。
ところが、そんな風に数学の問題に頭を突込んで一心になっている時に限って、思いもかけない背後《うしろ》の方から、ハッキリした声で……オイ……と呼びかける声が聞こえて、彼をビックリさせる事がよくあった。それは、むろん父親の声でもなければ先生の声でも、友達の声でもない。誰の声だか全くわからなかったが、しかし非常にハッキリしていた事だ
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