木魂
夢野久作
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)立ち佇《ど》まって
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)五|勺《しゃく》ばかり
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「俺はきょうこそ間違いなく汽車に轢き殺されるのだぞ」に傍点]
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……俺はどうしてコンナ処に立ち佇《ど》まっているのだろう……踏切線路の中央《まんなか》に突立って、自分の足下をボンヤリ見詰めているのだろう……汽車が来たら轢《ひ》き殺されるかも知れないのに……。
そう気が付くと同時に彼は、今にも汽車に轢かれそうな不吉な予感を、背中一面にゾクゾクと感じた。霜《しも》で真白になっている軌条の左右をキョロキョロと見まわした。それから度の強い近眼鏡の視線を今一度自分の足下に落すと、霜混《しもまじ》りの泥と、枯葉にまみれた兵隊靴で、半分腐りかかった踏切板をコツンコツンと蹴《け》ってみた。それから汗じみた教員の制帽を冠《かぶ》り直して、古ぼけた詰襟《つめえり》の上衣《うわぎ》の上から羊羹《ようかん》色の釣鐘マントを引っかけ直しながら、タッタ今通り抜けて来
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