た枯木林の向うに透いて見える自分の家の亜鉛《トタン》屋根を振り返った。
……一体俺は、今の今まで何を考えていたのだろう……。
彼はこの頃、持病の不眠症が嵩《こう》じた結果、頭が非常に悪《わ》るくなっている事を自覚していた。殊に昨日は正午過ぎから寒さがグングン締まって来て、トテモ眠れそうにないと思われたので、飲めもしない酒を買って来て、ホンの五|勺《しゃく》ばかり冷《ひや》のまま飲んで眠ったせいか、今朝《けさ》になってみると特別に頭がフラフラして、シクンシクンと痛むような重苦しさを脳髄の中心に感じているのであった。その頭を絞るように彼は、薄い眉《まゆ》をグット引寄せながら、爪先《つまさき》に粘《ねば》り付いている赤い泥を凝視《みつ》めた。
……おかしいぞ。今朝は俺の頭がヨッポドどうかしているらしいぞ……。
……俺は今朝、あの枯木林の中の亜鉛葺《トタンぶき》の一軒屋の中で、いつもの通りに自炊の後始末をして、野良《のら》犬が這入《はい》らないようにチャント戸締りをして、ここまで出かけて来たことは来たに相違ないのだが、しかし、それから今までの間じゅう、俺は何を考えていたのだろう。……何
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