人間の特徴を殺してしまう教育法なんだ。数学だけ甲でいる事を許さない教育法なんだ。
 ……だから今までにドレ程の数学家が、自分の天才を発見し得ずに、闇から闇に葬《ほうむ》られ去ったことであろう。
 ……俺は今日まで黙々として、そうした教育法と戦って来た。そうして幾多の数学家の卵を地上に孵化《ふか》させて来た。
 ……太郎もその卵の一つであった。
 ……温柔《おとな》しい、無口な優良児であった太郎は、俺が教えてやるまにまに、彼独特の数理的な天才をスクスクと伸ばして行った。もう代数や幾何の初等程度を理解していたばかりでなく、自分で LOG を作る事さえ出来た。……彼が自分で貯《た》めたバットの銀紙で球を作りながら、時々その重量と直径とを比較して行くうちに、直径の三乗と重量とが正比例して増加して行く事を、方眼紙にドットして行った点の軌跡《きせき》の曲線から発見し得た時の喜びようは、今でもこの眼に縋《こび》り付いている。眼を細くして、頬《ほっ》ペタを真赤にして、低い鼻をピクピクさせて、偉大なオデコを光らしているその横顔……。
 ……けれども俺は太郎に命じて、そうした数理的才能を決して他人の前で発
前へ 次へ
全54ページ中48ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング