表させなかった。学校の教員仲間にも知らせないようにしていた。「又余計な事をする」と云って視学官連中が膨《ふく》れ面《つら》をするにきまっていたから……。
……視学官ぐらいに何がわかるものか。彼奴等《きゃつら》は教育家じゃない。タダの事務員に過ぎないのだ。
……ネエ。太郎、そうじゃないか。
……彼奴《やつら》の数学は、生徒職員の数と、夏冬の休暇に支給される鉄道割引券の請求歩合と、自分の月給の勘定ぐらいにしか役に立たないのだ。ハハハ……。
……ネエ。太郎……。
……お父さんはチャント知っているんだよ。お前が空前の数学家になり得る素質を持っていることを……アインスタインにも敗けない位スゴイ頭を持っていることを……。
……しかし、お前自身はソンナ事を夢にも知らなかった。お父さんが云って聞かせなかったから……だから残念とも何とも思わなかったであろう。お父さんの事ばかり思って死んだのであろう……。
……だけども……だけども……。
ここまで考えて来ると彼はハタと立ち停まった。
……だけども……だけども……。
というところまで考えて来ると、それっきり、どうしてもその先が考えられな
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