βγ,θω,π[#ここで横組み終わり]……なんどに変化して、三角函数が展開されたように……高次方程式の根《こん》が求められた時の複雑な分数式のように……薄黄色い雲の下に神秘的なハレーションを起しつつ、涯《は》てしもなく輝やき並んでいた。形《かた》に表わす事の出来ないイマジナリー・ナンバーや、無理数や、循環《じゅんかん》少数なぞを数限りなく含んで……。
 彼は、彼を取巻く野山のすべてが、あらゆる不合理と矛盾とを含んだ公式と方程式にみちみちている事を直覚した。そうして、それ等《ら》のすべてが彼を無言のうちに嘲《あざけ》り、脅《おび》やかしているかのような圧迫感に打たれつつ、又もガックリとうなだれて歩き出した。そうしてそのような非数理的な環境に対して反抗するかのように彼は、ソロソロと考え初めたのであった。
 ……俺は小さい時から数学の天才であった。
 ……今もそのつもりでいる。
 ……だから教育家になったのだ。今の教育法に一大革命を起すべく……児童のアタマに隠れている数理的な天才を、社会に活《い》かして働かすべく……。
 ……しかし今の教育法では駄目だ。全く駄目なんだ。今の教育法は、すべての
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