校の時間が遅れるのは止《や》むを得ない。だから線路を通るのは万《ばん》止むを得ないのだ……。
なぞといったような云い訳を毎日毎日心の中で繰り返しているのであった。当てもない妻の霊に対して、おんなじような詫《わ》びごとを繰返し繰返し良心の呵責《かしゃく》を胡麻化《ごまか》しているのであった。
ところが天罰|覿面《てきめん》とはこの事であったろうか。こうした彼の不正直さが根こそげ曝露《ばくろ》する時機が来た。しかし後から考えるとその時の出来事が、後に彼の愛児を惨死させた間接の……イヤ……直接の原因になっているとしか思われない、意外|千万《せんばん》の出来事が起って、非常な打撃を彼に与えたのであった。
それはやはり去年の正月の大寒中で、妻の三七日が済んだ翌《あく》る日の事であったが…………………………………………。
……ここまで考え続けて来た彼は、チョット鞄を抱え直しながら、もう一度そこいらをキョロキョロと見まわした。
そこは線路が、この辺《へん》一帯を蔽《おお》うている涯《は》てしもない雑木林の間の空地に出てから間もない処に在る小川の暗渠《あんきょ》の上で、殆《ほと》んど干上《ひ
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