も心も瘠せ細る三日月の、枯木の枝に縋り付きながら、土の底へ沈み果てまする、わたくしの一生。
 ……わけても勿体ない御ことは金丸様。御身請の御恩は主様《しゅさま》の御恩、親様の御恩にも憎して深いものと承わっておりながら、身をお任せ申しまする甲斐もない、うつそみの脱殻《ぬけがら》よりも忌《い》まわしいこの病身、逆様《さかさま》の御介抱を受けまするなりにこの世を去りまする面目なさ。空恐ろしさ。来世は牛にも馬にも生れ変りまして、草を喰べ、水を飲みましても貴方様を背負いまする身の上になりまするようにと、神様、仏様に心中の御願はかけながらも、この世にては露ほども御恩返しの叶《かな》わぬ情なさ。女とはかようなものかと夕蝉の、草の葉末に取りついて、心も空に泣き暮らすばかり。
 ……神様、仏様の御恩は申すに及ばず、この世にてお世話様になりました方々や、不束《ふつつか》なわたくしに仮初《かりそめ》にも有難いお言葉を賜わりました方々様へは、これこの通り手を合わせまする。ただ何事もわたくしの、つたない前世の因果ゆえと思召《おぼしめ》して、おゆるしなされて下されませ……。
 ……と……云わるる声も絶え絶えに、水
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