したのは、あの銀様と千様のこと。今年の花見の道中で、あのような心ない事を申しましたのも、心底《しんそこ》からお二人様の御行末を愛《いと》しゅう思いましたればの事。早ようこのような女を思い切って、男らしい御生涯にお入りなされませと、平生《いつも》から御意見申上げたい申上げたいと思いながらも、それがなりませぬ悲しい思いが、お変りなされたお二人のお姿を見上げますと一時に、たまらぬようになりまして、熱い固まりを胸にこらえながら、やっとあれだけ申しましたもの……それを、どのような心にお取りなされましたやら。それから後《のち》というものフッツリとお二人のお姿が京、大阪の中《うち》にお見えになりませぬとやら。その後の御様子を聞くすべもないこの胸の中《うち》の苦しさ辛《つ》らさ。お二人様は今頃日本のどこかで、怨めしい憎い女と思召《おぼしめ》して、寝ても醒めても怨んでおいでなされましょうか。それとも、もしやお若い心の遣《や》る瀬なさにこの世を儚《はか》なみ思い詰めて、あられぬ御最期をなされはせまいか。これはこの身の自惚《うぬぼ》れか。思い過ごしか。罪の深さよ。浅ましさよと、思いめぐらせばめぐらすほど、身
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