なく忽ちの中《うち》に京、大阪中の大評判になりましたもので……。
……ところがその評判につれて、お二人様のお姿が、京、大阪界隈にフッツリと見えなくなりますると、御老人の気弱さからでも御座りましょうか。金丸大尽様が何とのう御周章《おうろたえ》になりまして、お二人様から、どのように満月が怨まれていようやら知れぬ。満月と自分の身体《からだ》に万一の事がないうちにと仰言るような仔細《ことわり》で、こちらからお願い申上げまする通りのお金を積んで、満月ことを御身請《おみうけ》なされまして、嵯峨野の奥の御邸《おやしき》を御造作なされ変えて、お城のように締りの厳重な一廓を構え、その中に美事な別荘好みのお家敷《やしき》を作り、水を引き、草木《そうもく》を植えて、満月をお住まわせになりました。
……それは見事なお構えで御座いました。お客にお出でになりましたお江戸の学者、鼻曲山人《はなまがりさんじん》様も、お筆に残しておいでになりまする。私どもが御機嫌伺いに参りましても根府《ねぶ》川の飛石《とびいし》伝い、三尺の沓脱《くつぬぎ》は徳山|花崗《みかげ》の縮緬《ちりめん》タタキ、黒縁に綾骨《あやぼね》の障子
前へ
次へ
全45ページ中36ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング