抜いて畳目まで入れたものに金箔を着せたのを、千六に引渡した。
千六は、その小判を新しい唐米《からまい》の袋に詰込んで、手車に引かせ、帰りに桶屋から十個の桶を受取り、序《ついで》に山口屋から味噌を四百斤と、材木置場から鋸屑《おがくず》を五俵ほど買込んで、同じ手車に積ませて、その日の暮れ方に舟着場へ持って来た。そこで百石積の玄海丸という抜荷《ぬけに》専門の帆前船を探し出して顔なじみの船頭に酒手を遣り、水揚人足に命じて車の上の荷物を全部積込ませると、念のためもう一度上陸してこの間の福昌号の裏口に行き、人通りの絶えたところを見計《みはか》らって地下室の小窓に鼻を近付け、今一度中の様子を窺いてみた。中には四五日前の通りに味噌桶が行列して、黴臭《かびくさ》い味噌の臭気《におい》がムンムンする程籠もっていた。
ニンガリと笑った彼は立上って空を仰いでみた。この辺では穏やかでない東《こち》寄りの南風《はえ》が数日来、絶え間なしに吹いているところで、追手の風でも余程自信のある船頭でないと船を出せるものでないことが商売柄千六にはよくわかっていた。
舟着場に帰った千六は船頭を捉《つか》まえて、明日早朝に
前へ
次へ
全45ページ中28ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング