やくと、思わず躍り上りたくなるのをジッと辛棒して、何喰わぬ顔で同じ型の蓋附桶を十個、大急ぎで誂《あつら》えた。それから今度は金物屋に行って鉛の半円鋳《なまこ》を六百斤ほど買集め、そっくりそのまま町外れのシロカネ屋(金属細工屋)に持って行って、これは蓬莢島《ホルモサ》から来た船の註文ゆえ、特別念入りの大急ぎで遣ってもらいたい。蓬莢島《ホルモサ》でも一番の大金持、万熊仙《まんゆうせん》という家で、この六月に生れる赤ん坊のお祝いに、部屋部屋の天井から日本の小判を吊るすのだそうで、ソックリそのまま蠅除《はいよ》けにするという話。普通の家《うち》では真鍮の短冊を吊すところを金持だけに凝《こ》った思案をしたものらしい。面倒ではあろうが、この鉛鋳《なまこ》の全部を大急ぎで小判の形に打抜いて金箔をタタキ付けてもらいたい。糸を通す穴は向うに着いてから明けるそうな。本物の小判のお手本はここに在る……といったような事を、まことしやかに頼み込んだ。
 賃銀がよかったのでシロカネ屋の老爺《おやじ》は、さほど怪しみもせずに、両手を揉合《もみわ》わせて引受けた。六百斤のナマコを三日三夜がかりで一万枚に近い小判型に打
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