宮様の御罰までもない。身共がこの和尚と同様に一刀の下に斬棄《きりす》てる役柄故、左様《さよう》心得よ」
それから数日の後《のち》、銀之丞は一品薬王寺宮御門跡の御賽銭宰領に変装し、井遷寺の床下に積んであった不浄の金を二十二の銭叺《ぜにがます》に入れ、十一頭の馬に負わせ、百姓共に口を取らせて名古屋まで運び、諸国為替問屋、茶中《ちゃちゅう》の手で九千余両の為替に組直させ、百姓共に手厚い賃銀を取らせて追返すと、さっぱりと身姿《みなり》を改めて押しも押されもせぬ公家侍の旅姿となり、夜《よ》を日に次いで京都へと急いだ。
一方、銀之丞に別れた播磨屋千六は、途中滞りもなく長崎へ着いた。
千六は長崎へ着くと直ぐに抜荷《ぬけに》を買いはじめた。抜荷というのは今でいう密貿易品のことで、翡翠《ひすい》、水晶、その他の宝玉の類、緞子《どんす》、繻珍《しゅちん》、羅紗《ラシャ》なぞいう呉服物、その他禁制品の阿片《アヘン》なぞいうものを、密かに売買いするのであったが、その当時は吉宗将軍以後の御政道の弛《ゆる》みかけていた時分の事だったので、面白いほど儲かった。モトモト千六は無敵な商売上手に生れ付いていたの
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