ん》たる声を張上げて叫んだ。
「……騒ぐな騒ぐな。百姓共。よく聞けよ。身共は京都に在《おわ》します一品薬王寺宮《いっぽんやくおうじのみや》様の御申付《おもうしつけ》によって是《これ》まで参いった宮侍、吉岡鉄之進と申す者じゃ。そもそもこの寺は今川義元公の没落後、東照宮様の御心入れによって、薬王寺宮様の御支配寺になっていたものをこれなる悪僧が横領致して、不思議なる働きをなし、その方共が持寄る不浄の金を掻集めおる噂が、勿体なくも宮様の御耳に入り、一日も早く件《くだん》の悪僧を誅戮《ちゅうりく》なし、下々《しもじも》の難儀を救い取らせよとの有難い思召《おぼしめし》によって、はるばる身共を差遣《さしつか》わされた次第じゃ。只今首尾よくこの悪僧を仕止めた以上、この寺に在る不浄の金銭は残らず宮家に於て召上げられる故に左様《さよう》心得よ。なおその方共は身共の下知に従って、隠れたる金銀を探し出し、身共の差図通りに取形付けを致すならば、今日持って参《ま》いった賭博《ばくち》の資金《もとで》は各自《めいめい》に相違なく返し遣わすのみならず、賃銀は望みに任するであろう。もし又、否やを申す者があるならば、一品
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