ねエイヤエイヤと、調子を計って押しつ緩めつしているけはいである。さては前以て察した通りにこの和尚奴、自身大工の心得があるのを幸い、本堂のアタリアタリの締りを弛め、普通《なみ》の者の力でも拍子を揃えてゆすぶれば、次第次第に揺れ出すように仕掛け、天井裏には砂でも積んでおいて、客人達が勝負に夢中になっている油断を見澄まして、コッソリとカラクリを動かし、この辺の無智な奴どもを脅やかし、悪銭を奪いおったに相違ない。これこそ天の与うる福運。取逃がしてなるものかと思ううち、ぬき足さし足和尚の背後《うしろ》に忍び寄り、腰の錆脇差《さびわきざし》をソロソロと音のせぬように抜き放ち、和尚の背中のマン中あたりにシッカリと切先《きっさき》を狙い付け、矢声もろとも諸手《もろて》突きに、柄《つか》も透《とお》れと突込めば、何かはもってたまるべき、悪獣のような叫び声をギャアッと立てたがこの世の別れ、あおのけ様に引っくり返って、そのまま息が絶えてしまった。その声に驚いて、外に逃出していた百姓連中がワイワイと駈集《かけあつ》まって来るのを、銀之丞は和尚の屍体に片足かけたまま見下した。引抜いた血刀を構えながら凜々《りんり
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