その狐か狸かが渫《さら》って行った金高を集めたなら、大したものづら……といったような話を、頭に刻み込み刻み込み行くうちに銀之丞は、いつの間《ま》にか菊川の町外れを右に曲って、松の間の草だらけの道を、無我夢中で急いでいた。……大工上りの袁許坊主《おげぼうず》……井遷寺《せいせんじ》のカラクリ本堂……思いもかけぬ大金儲けの緒《いとぐち》……生命《いのち》がけの大冒険……といったような問題を、心の中でくり返しくり返し考えながら……。
無間山井遷寺は聞きしにまさる雄大な荒廃寺《あれでら》であった。星明りに透かしてみると墓原《はかはら》らしい処は一面の竹籔となって、数百年の大|銀杏《いちょう》が真黒い巨人のように切れ切れの天の河を押し上げ、本堂の屋根に生えたペンペン草、紫苑のたぐいが、下から這い上った蔦《つた》や、葛蔓《くずかずら》とからみ合って、夜目にもアリアリと森のように茂り重なっていた。
見張りの眼を巧みに潜ってきた銀之丞が、閉め切った本堂の雨戸の隙間からチラチラ洩れる火影を窺《のぞ》いてみると、正しく天下晴れての袁彦道《ばくち》の真盛り。月代《さかやき》の伸びた荒くれ男どもは本職の
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