らせん》を集めて威張っている。自分も相当の好きらしく時々寺銭を賭《は》っているそうなが、不思議な事にこの坊主を負かすと間もなく、御本堂がユサユサと家鳴《やな》り震動して天井から砂が降ったり、軒の瓦が辷《すべ》ったりする。その物すごさに一同が居たたまれずに逃げ出すと、又、間もなく静まり返るので、打連れて本堂に引返してみると、こは如何に。今まで山のように積んであった寺銭も場銭《ばせん》も盆|茣蓙《ござ》も、賽目《さいのめ》までも虚空に消え失せて、あとには夥しい砂ほこりが分厚く積っているばかり。それが恐ろしさと馬鹿らしさに皆、忘れても和尚を負かさぬように気を付けているが、それでも時々大地震のような家鳴《やなり》、震動が起るので、事によるとやはり狐狸《こり》の仕業《しわざ》かも知れない。とはいえ場所はよし、和尚の取持《とりもち》はよし、麓の一本道に見張りさえ付けておけば、手入れの心配は毛頭ないので、入れ代り立代り寄り集まって手遊びするものの絶えぬところが面白い。もちろんそのような家鳴、震動の度毎《たびごと》に、麓の百姓に聞いてみても、そんな地震は一向知らぬという話。ナント面妖な話ではないかえ。
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