と……思案に暮るる一人旅。京外れで買うた尺八の歌口を嘗め嘗め破れ扇を差出しながら、宿場宿場の揚雲雀《あげひばり》を道連れに、江戸へ出るには出たものの、男振りよりほかに取柄のない柔弱武士とて、切取り強盗はもちろん叶《かな》わず。押借《おしが》り騙取《かたり》の度胸も持合わせず。賭博、相場の器用さなど、夢にも思い及ばぬまま、三日すれば止められぬ乞食根性をそのまま。京都とは似ても似付かぬ町人の気強さを恐れて、屋敷町や町外れの農家や小商人《こあきんど》の軒先をうろ付きまわり、一文二文の合力に、生命《いのち》をつなぐ心細さ。金儲けどころか立身どころか。派手な大小|印籠《いんろう》までも塩鰯と剥《は》げ印籠に取りかえる落ちぶれよう。稀《たま》には場末の色町らしい処で笠の中を覗き込んで馬糞《まぐそ》女郎や安|芸妓《げいしゃ》たちにムゴがられて、思わず収入《みいり》に有付いたり、そんな女どもの取なしで田舎大尽《いなかだいじん》に酒肴を御馳走され、一二番の戯れ小唄の御褒美に小袖、穿物、手拭なぞ貰うて帰る事もあり。そのほか役者衆に拾われかけたり、絵草子屋に売子を頼まれたりなぞ、色々な眼に出会うたものであっ
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