ゃろうが」
「存じませいでか。与九郎はこれが大自慢でチト性根が狂うとるという話も存じておりまする。つまりその薩州小判で、蓮池の自宅の奥に数寄《すき》を凝《こ》らいた茶室を造って、お八代に七代とかいう姉妹の遊女を知行所の娘と佯《いつわ》って、妾《めかけ》にして引籠もり、菖蒲《しょうぶ》のお節句にも病気と称して殿の御機嫌を伺わなんだ。馬術の門弟もちりぢりになって散々の体裁《ていたらく》じゃ。のみならず出会う人|毎《ごと》に、薩州は大藩じゃ。違うたもんじゃ違うたもんじゃとギヤマン茶碗や、延寿の刀や、姉妹の妾を見せびらかして吹聴致しているので皆、顔を背向《そむ》けている。あのような奴は藩の恥辱じゃから討って棄てようか……なぞと、部屋住みの若い者の中にはイキリ立つ者も在るげで御座るが、何にせいかの与九郎はモウ白髪頭ではあるが、一刀流の自信の者じゃで、皆二の足を踏んでいる……というモッパラの評判で御座るてや」
「フーム。よう御存じじゃのう。塙代がソレ程のタワケ者とは知らなんだ。遊女を妾にしている事や、家中の若い者の腹構えがそれ程とは夢にも……」
「アハハハ。左様《さよう》な立入った詮議は大目付殿の
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