……ハハ……」
「仰せられな。コレコレ坊主、茶を持て……」
二人は宿直《とのい》の間の畳廊下へ向い合った。百舌鳥《もず》の声が喧《やかま》しい程城内に交錯している。
お坊主が二人して座布団と煎茶を捧げ持って来た。淵老人が扇を膝に突いた。
「して何事で御座る」
尾藤内記は又腕を組んだ。
「余の儀でも御座らぬ。御承知の塙代与九郎|昌秋《まさあき》のう」
「ハハ……あの薩州拝みの……」
「シッ……その事じゃ。あの増長者奴《のぼせめ》が、一昨年の夏、あの宗像《むなかた》大島の島司《とうし》になっているうちに、朝鮮通いの薩州藩の難船を助けて、船|繕《つくろ》いをさせた上に、病人どもを手厚う介抱して帰らせたという……な……」
「左様左様《さようさよう》。その船は実をいうと禁断のオロシャ通いで、表向きに世話すると八釜《やかま》しいげなが……」
「ソレじゃ。そこでその謝礼とあって今年の春の事、薩州から内密に大島の塙代の家へ船を廻して、莫大もない金銀と、延寿国資の銘刀と、薩摩焼御紋入りのギヤマンのお茶器なんどいう大層な物を、御使者の手から直々《じきじき》に塙代与九郎へ賜わったという話な……御存じじ
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