を烈しくたたく音がすると、与一はキッと身を起した。仏壇の折れ障子をピッタリと閉めて、一散に玄関に走り出た。有り合う竹の皮の草履を突かけて出ると、式台の脇柱に繋いだ西村家の赤馬が前掻きするのを、ドウドウと声をかけながら表門の閂《かんぬき》を外した。外には紋服の与九郎昌秋が太刀《たち》提《ひっさ》げて汗を拭いていた。
「おお与一か。昼日中《ひるひなか》から門を閉《た》てて……慌てるな与一……ヤヤッ、何か斬ったナ……」
と眼を丸くして見上げ見下ろす祖父の手首を与一は両手で無手《むず》と掴んだ。
「何事じゃ……どうしたのじゃ……」
と急《せ》き込んで尋ねる昌秋を、与一は玄関から一直線に仏間に案内した。仏壇の障子を颯《さっ》と左右に開いて二つの首級を指しながら、キッと祖父の顔を仰ぎ見た。
「ウ――ムッ。これはッ……」
ギリギリと眼を釣り上げた昌秋は左手に提《ひっさ》げた延寿国資《えんじゅくにすけ》の大刀をガラリと畳の上に取落した。仏壇の前にドッカリと安座《あんざ》を掻いて、両手を前に突いた。肩で呼吸をしながら与一をかえりみた。
「……わ……われが斬ったか……与一……」
与一はその片脇にベ
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