ッタリと座りながら無造作に一つうなずいた。唇を切れる程噛んだまま昌秋の顔を凝視した。
 昌秋の顔が真白くなった。忽ちパッと紅《あか》くなった。そうして又見る見る真青になった。
「お祖父《じい》様……お腹を召しませ」
 与一は小さな手を血だらけの馬乗袴の上に突っ張った。
「……扨《さて》はおのれッ……」
 昌秋の血相が火のように一変した。坐ったまま延寿国資の大刀を引寄せて、悪鬼のように全身をわななかせた。
 与一はパッと一尺ばかり辷《すべ》り退《しりぞ》いた。居合腰のまま金剛兵衛の鯉口を切った。キッパリと言い放った。
「与一の主君は……忠之様で御座りまするぞッ」
「……ナ……ナ……何とッ……」
「主君に反《そ》むく者は与一の敵……親兄弟とても……お祖父《じい》様とても許しませぬぞッ……」
「おのれッ……小賢《こざか》しい文句……誰が教えたッ……」
「お父《とと》様と……お母《かか》様……そう仰言《おっしゃ》って……私の頭を撫で……亡くなられました……」
 与一がオロオロ声になった。両眼が涙で一パイになった。ガラリと金剛兵衛を投げ出して昌秋の右腕に取り縋《すが》った。
「……与一を……お斬
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