「オホホ。姉さんていうたら何につけ彼《か》につけ稚殿《ちいどの》の事ばっかり……」
「笑いなんな。あたし達の行末が、どうなる事かと思うとなあ。タッタ一度で宜《え》えけに、あげな可愛い若殿をばシッカリと抱いて寝てみたいと思うわいな。そう思うと妾《わたし》ゃ胸騒ぎがするわいな」
「ホホホホホホホ。姉さんの嫌《いや》らしさ。まあだ十四ではないかな。与一《よっ》ちゃまは……」
「いいえ。色恋ではないわいな。わたしゃシンカラ与一《よっ》ちゃんが可愛《いと》しゅうて可愛《いと》しゅうて……」
「オホホホホ。可笑《おか》しい可笑しい。ハハハハ……」
「ようと笑いなさい。色恋かも知れん。年寄のお守《も》りばっかりしとると若い人が恋しゅうなる。子供でもよい。なあ七代さん。ホホホ……」
「ホホホホ。ハハハハ。アハハハハハハハ」
 二人の女が他愛もなく笑い転げている真正面の細骨障子に、音もなく小さな人影が映《さ》した。脇差を提《ひっさ》げた与一の前髪姿であった。
「まあ。与一《よっ》ちゃま。噂をすれば影……」
 と七代が頬をパッと染《そめ》て起き上りながら、障子を引き明けた。そこには鬢《びん》も前髪もバラバ
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