しく起直って、露わな乳の下へ掌《て》を当てた。二十二三であろうか。ボッチャリした下|腮《あご》に襟化粧が残って、唇が爛れたように紅《あか》い。
「きょうは暖《ぬく》いけになあ」
 妹の七代は仰向《あおむけ》に長くなったまま振向いた。十八九であろうか。キリキリとした目鼻立ち、肉付きである。
「いいえ。今がた早馬の音が涼松《すずまつ》の方から聞こえたけに……」
「どこかの若殿の責め馬で御座んしょ」
「いいえ。あたしゃ、きょうのお出ましが気にかかってならぬ」
「ホホ。姉さんとした事が。考えたとてどうなろうか。……おおかた妾たちを追い出せというような、親戚がたの寄合いでがな御座んしょう……ホホ……」
「ほんにお前は気の強い人……」
「……妾たちの知った事じゃ御座んせぬもの。それじゃけに事が八釜《やかま》しゅうなれば、わたし達を連れて薩州へ退《の》いて見せると、大殿は言い御座ったけになあ」
「あれは真実《ほんと》な事じゃろうかなあ、七代さん」
「大殿の御気象ならヨウわかっとります。云うた事は後へ退《ひ》かっしゃれんけになあ」
「稚殿《ちいどの》も連れて行かっしゃろうなあ。その時は……なあ……」

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