ろ》の杉天井、真竹《まだけ》瓦の四方縁、茶室好みの水口を揃えて、青銅の釣燈籠、高取焼大手水鉢の配りなぞ、数寄者を驚かす凝《こ》った一構え……如何にも三百五十石の馬廻《うままわり》格には過ぎた風情《ふぜい》であった。
 その西側の細骨障子には黄色い夕陽が長閑《のどか》に、一パイにあたっていた。ピッタリと閉切《しめき》ったその障子の内側の黒檀縁《こくたんぶち》の炉の傍《そば》に、花鳥模様の長崎|毛氈《もうせん》を敷いて、二人の若い女が、白い、ふくよかな両脚を長々と投出しながら、ギヤマンの切子鉢に盛上げた無花果《いちじく》を舐《しゃぶ》っていた。二人とも御守殿風の長笄《ながこうがい》を横すじかいに崩《くず》し傾けて、緋緞子《ひどんす》揃いの長襦袢の襟元を乳の下まで白々とはだけたダラシなさ。最前から欠伸《あくび》を繰返し繰返し不承不承に口を動かしている風情であった。仄《ほの》暗い奥の十畳の座敷には、昨夜《ゆうべ》のままの夜具が乱れ重なって、その向うの開き放した四尺|縁《えん》には、行燈、茶器、杯盤などが狼藉と押し出されている。
「妾《わたし》……何やら胸騒ぎがする」
 と年上のお八代が、気弱ら
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