と抱き止めにかかる厩|仲間《ちゅうげん》を、
「エイッ……」
と一《ひ》と当て、十三四とは思えぬ拳《こぶし》の冴えに水月《みずおち》を詰められて、屈強の仲間がウムムと尻餅を突いた。その隙に藁庖丁の上に懸けて在る手綱を外して、馬塞棒《ませぼう》の下を潜って、驚く赤馬をドウドウと制しながら、眼にも止まらぬ早業で轡《くつわ》を噛ませた。馬塞棒《ませぼう》を取払って、裸馬へヒラリと飛乗ると、頭を下げながら手綱|短《みじか》にドウドウドウドウと厩を出た。裏庭から横露地を玄関前へタッタッタッと乗出して、往来へ出るや否や左へ一曲り、
「ハヨ――ッ」
と言う子供声、高やかに、早や蹄の音も聞こえなくなってしまった。
四
お城の南、追廻《おいまわし》門、汐見|櫓《やぐら》を包む大森林と、深い、広い蓮堀を隔てた馬場先、蓮池、六本松、大体山の一帯は青い空の下に向い合って櫨《はぜ》、楓《かえで》、紅葉の色を競っていた。
その蓮池の山蔭《やまかげ》。塙代与九郎宅の奥庭、落葉《らくよう》を一パイに沈めた泉水に近く、樫と赤松に囲まれた離れ座敷は、広島風の能古萱葺《のこかやぶき》、網代《あじ
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