御座る。ハハハ」
「大目付殿の御慈悲……家中の者も感佩《かんぱい》仕るで御座ろう。その御心中がわからぬ与九郎でも御座るまいが……」
淵老人は眼をしばたたいた。
「イヤ。太平の御代《みよ》とは申せ、お互いも油断なりませぬでの。つまるところは、お家安泰のためじゃ」
尾藤内記はヤット覚悟を定めたらしく、如何にも器量人らしい一言を残して颯爽《さっそう》と大玄関に出た。
「大目付殿……お立ちイイ……」
「コレッ……ひそかにッ……」
と尾藤内記は狼狽してお茶坊主を睨み付けた。お徒歩侍《かちざむらい》、目明し、草履取《ぞうりとり》、槍持、御用箱なんどがバラバラと走って来て式台に平伏した。
三
「アッハッハッハッ。面白い面白い」
酒気を帯びた塙代与九郎昌秋は二十畳の座敷のマン中で、傍若無人の哄笑を爆発さした。通町の大西村と呼ばれた千二百石取の本座敷で、大目付の内達によって催された塙代家一統の一族評定の席上である。
「ハハア。素行を改めねば追放という御沙汰か。薩藩の恩賞を貰うたが、お上の気に入らぬか。面白い……出て行こう。……黒田の殿様は如水公以来、気の狭い血統じゃ。名誉の武士
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