が……しかし殿の御景色《おけしき》がこう早急ではのう」
「さればで御座るのう……御役目の御難儀、お察し申しまするわい」
「申上げます。アノ申上げます」
とお茶坊主が慌しく二人の前に手を突いた。眼をマン丸くして青くなっていた。
「殿様よりの御諚《ごじょう》で御座ります。尾藤様は最早《もはや》、御退出になりましたか見て参れとの御諚で……」
二人は苦い顔を見合わせた。
「ウム。よく申し聞けた。いずれ褒美取らするぞ。心利いた奴じゃ」
と言ううちに尾藤内記はソソクサと立上った。
「アノ……何と申上げましょうか」
「ウム。先刻退出したと申上げてくれい」
「かしこまりました」
お坊主がバタバタと走って大書院の奥へ消えた。
「……まずこの通りで御座る。殿の御性急には困り入る。すぐに処分をしに行かねば、お気に入らぬでのう」
「大目付殿ジカに与九郎へ申渡されますか」
「イヤ。とりあえず里方西村家へこの事を申入れて諫《いさ》めさせる。諫めを用いぬ時には追放と達したならば、如何な与九郎も一《ひ》と縮みで御座ろう。万事はその上で申聞ける所存じゃ。……手ぬるいとお叱りを受けるかも知れぬが、所詮、覚悟の前で
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