龍造寺、大友の末路を学ぶとも、天下の勢《せい》を引受けて一戦してみようと仰せられる事は必定じゃ。大体、主君《との》の御不満の底にはソレが蟠《わだか》まっておるでのう。その武勇の御望みが、御一代押え通せるか、通せぬかが当藩の運命のわかれ道……」
「言語道断……そのような事になっては一大事じゃ。ハテ。何としたもので御座ろう」
「さればこそ、先程よりお尋ね申すのじゃ。よいお知恵は御座らぬか」
「御座らぬ」
 と淵老人はアッサリ頭を振った。
「お気に入りの倉八《くらはち》殿(十太夫)に御取りなしを御願いするほかにはのう」
 内記は片目を閉じてニヤリ笑い出しながら、頭をゆるやかに左右に振った。老人もニヤリと冷笑して頭を掻いた。倉八十太夫も、お秀の方も、殿の御気に逆らうような事は絶対にし得ない事を知っている二人は、今更のように眼を白くしてうなずき合った。
 微《かすか》な溜息が二人の顔を暗くした。城内の百舌《もず》の声がひとしきり八釜《やかま》しくなった。
「五十五万石の中にこれ以上の知恵の出るところは無いからのう」
「吾々如きがお納戸役ではのう」
「今の塙代与九郎は隠居で御座ったの」
 と尾藤内
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