る。滅多にない病気ではあるが、発見されたが最後、如何なる名医でも手段の施しようがない。
「……兄さんのは……非常に……ステキに大きいのです。こんな大きいのは見た事がないって内藤先生も云っておられました」
弟は青褪めた顔でオズオズと笑った。両眼に溜まっていた涙がハラハラと両頬を伝わった。
私は熱に浮かされたような気持になった。魂が肉体から離れたような気持で笑い笑い云った。
「アハハハハ。済まん済まん。余計な心配かけて済まん。俺の動脈瘤は満洲直輸入だ。大原大将閣下の護衛で哈爾賓《ハルピン》に行った時に、露助《ろすけ》の女から貰った病毒に違いないのだよ。アハハハ。自業自得だ。……しかし……よく云ってくれた」
弟はモウ立っている事が出来なくなったらしい。私の頸に一層深く両手を捲付けてオロオロと泣出した。
「馬鹿。泣く奴があるか。見っともない」
私は寝台の枕の下から白い封筒に入れた札束を取出した。念のため数えてみると十円紙幣が七十枚ある。その中から四十枚だけ数えて新聞紙に包んだ。
「いいか。ここに四百円ある。これは俺達が病気した時の用心に貯金しといた金だ。俺の葬式をした残りはお前に遣る。
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