悪戯《いたずら》をはじめる。そいつが心臓の出口の大動脈の附根に引っかかると二年か三年か経つうちにそこいらの血管がブヨブヨに弱くなって来る。本人がチットモ気付かない間にその部分の血管が、心臓から押出される血液の圧力に堪えかねて、少しずつ少しずつゴム風船のように膨れ上り初める。そいつがだんだん大きくなって肋骨《ろっこつ》の内側をコスり削って咳嗽《がいそう》を連発さしたり、声帯に伝わる神経を圧迫して声を嗄《か》らしたりし初めるのであるが、それでも本人はまだ気付かない事がある。医師も呼吸器病ぐらいに考えて呑気に構えているうちに、とうとうその瘤《こぶ》の頭が紙みたいに薄くなるまで膨れて来て、やがてボカンと破裂する。肋骨の外へパンクして胸を血だらけにして引っくり返る事もあるが、内側へパンクするとそのまま、激烈な腹膜炎を起す。さもなくとも頭の方へ血を送っている管《パイプ》の根本が破れるんだから脳髄が一ペンに参って、卒中よりも迅速に斃《たお》れてしまうという世にも恐ろしいのがこの大動脈瘤である。しかも極めて早期に発見されたもので二年。遅く発見されたものだと一二週間の寿命しかないのが今までのレコードであ
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