として這入って来た。
「ヤア。醒めましたか。頭が痛くないですか」
「そう云われてみると成る程頭が痛いし、胸がすこしムカムカするようだ。イヤ、大丈夫です。先頃はどうも……」
「アハハ。イヤ失礼しました。ビックリなすったでしょう。無断でコンナ処へ連れて来たもんですから」
「実は驚いているんです。どうしたんですか、一体これは……」
「先ずこれを御覧なさい」
 古木先生はすこし真面目になって背後《うしろ》を振返った。古木先生の白い服の蔭に隠れていたアダリーが丸い筒を差出した。古木先生は、その筒の蓋をスポンと抜いて、中から黒い大きなセルロイドみたような正方形の紙を出した。空の方向に差し出して私に透かしてみせた。それは大きな医学用写真フイルムであった。人間の肋骨らしいものが黒く波打って並んでいる下の方に、白い雲みたようなものがボーとボヤケている。
「この白いものが貴方の心臓なのです」
「僕の心臓……」
「そうです。よく御覧下さい。ここが心臓の右心室でここが左心室です。ここから出た大動脈がコンナにグルリと一うねりして重なり合っているでしょう。おわかりになりますか」
「わかります。ゴムの管みたいに『の
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