』の字形に曲って重なり合っているようですね」
「そうですそうです。僕はこの写真を撮るためにあなたに痲酔を利かせてこの病院に運び込んだのです。そうしてあの晩のうちに五枚ばかり瞬間写真を撮ってみたのですが、その中でも一番ハッキリ撮れたのがこの一枚です」
「ヘエッ。何のために……」
「何のためって、貴方の伯父さんに頼まれたのですよ」
「エッ。僕の伯父さん。あの須婆田の……まだ生きているのですか」
「ええ御健在ですとも。伯母さんの玉兎女史と一緒に昨夜《ゆうべ》印度へ御出発になりましたよ。銀洋丸で……」
私は眼をパチパチさした。古木学士はいよいよ眼を細くして反身《そりみ》になった。学士の肩の蔭で、アダリーも可笑《おか》しいのを我慢しながらうつむいている気配である。
「何だか……僕にはわかりません」
「アハハハ……。僕にも深い御事情はわかりませんが、貴方の伯母様ですね。雲月斎玉兎嬢ことウノ子さんは未《ま》だ興行界を引退なさらない前からいつも私の処へ来て深透レントゲンをやっておられたのです。つまり美容の目的から出た産児制限ですね。貴方だから包まずにお話出来ますが、私は貴方の伯母様の御蔭で大学を出て
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