虹のようにギラギラと輝き出したように見えた。それにつれて口の中が妙に黄臭《きなくさ》くなって来たので、毒を飲まされたのかと思ったが、もう遅かった。誰か五六人の手でシッカリと背中を抱えられているのを感じたきり何もかもわからなくなってしまった。
四
フッと眼をさますと私は見慣れない病院の一室に寝ている。緑色の壁と薄紫のカアテンに囲まれた静かな、暗い、窖《あなぐら》のような病室だ。カアテンの間から明るい青空の光りが流れ込んで、寝台の枕元から私の顔の真上に垂れ下っているスイトピーを美しく輝かしている。鼻が痲痺しているせいか芳香がしないようである。そのうちに身体《からだ》中がビッショリと汗を掻いて来た。身体《からだ》をモジモジと動かしてみると、フランネルか何かの寝巻を着ているようである。
「……アッ……」
という小さな叫び声が私の枕元から聞えたので、ビックリして振り返ってみると、栗色の髪をグルグル巻にした黄色いワンピースの少女、眼の大きい、唇の赤い、鼻の高い、憂鬱な檳榔樹《びんろうじゅ》色の少女だ。
「アダリー」
アダリーは返事の代りに大きな瞬きを一つした。印度人特有の表
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