レントゲンで出来ているのじゃないかと疑った。
「ハハアー。レントゲン専門の方で……」
「そうです。大動脈瘤なら私の処へ毎日のように押しかけて参りますので、皮膚のキメを一眼見るとわかる位になれているのです。皆無事に助かる人が多いのでね。押すな押すなという景気です、ハハハ……」
古木学士はポカンと口を開けている私を見い見い言葉を続けた。
「イヤ。何でもない治療法なんです。私の秘薬でね、ブシリンという植物質のアルカロイドがあるのです。この薬を飲んでいるうちに血管がスグと柔らかくなって血圧が低くなるので、容易にパンクしないのです。ですから、その薬を差上げながら動脈瘤の病源である黴毒を根治するために、六百六号を注射しておりますと、動脈瘤がだんだん小さくなって、普通の丈夫な血管に回復するのです。しかもその膨れていた処には、丈夫な石膏の壁が残るために、二度とそこからはパンクしなくなるのです。私の処に見えた患者で助からなかった人は十人に一人しかありませんよ」
私は世にも意気地もなく椅子から辷《すべ》り降りた。
「どうぞ、僕に、その薬を頂かして下さいませぬか。お助け下さいませぬか」
「アハハ。お易い
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