と命じて、私はその上海行きの長崎丸という汽船に乗って盛広《もりひろ》の短刀と一緒に一切の事実を告白した遺書を残して、海中へ飛込む計劃である。万が一にも助からないようにピストルで頭を撃って……するとすぐ扉《ドア》をノックして十四五の可愛い顔のボーイが這入って来た、眼をマン丸くしてお辞儀をした。
「何か御用ですか」
私はすっかり張合が抜けてベットに長くなって寝たまま金を渡した。
切符を買って来たボーイは妙にニコニコしながら両手を揉んだ。
「御夕食後御退屈ならホテルのダンスホールにおいでになりませんか。すぐこの下ですが」
私は十二分の好奇心をもって、夕食もソコソコに階下のダンスホールにいって見た。そこで何事か起るに違いないといったような予感に打たれたが、しかしダンスホールには何等変った事がなかった。しかも東京の騒動が利いていたせいか、踊る客人は極めて僅少で、ただ一人若い医者らしいスマートな男が、一人で噪《はしゃ》いで踊っているのを、大勢の女がヤンヤと持て囃《はや》しているだけであった。その男は皮膚が薄赤くて髪毛《かみのけ》と眉毛が黄色く薄い男であったが、あんまり朗らかで愉快そうに見える
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