突当りの廻転|扉《ドア》をくぐると忽ち真暗になってしまったが、間もなくその暗闇の中から、冷たい小さな女の手が出て来て、私の左手をシッカリと握った。ヒヤリヒヤリと頬に触れる木葉《きのは》の間を潜り抜けながら奥の方へ引張り込んでいった。
私は恐ろしく緊張させられてしまった。早稲田在学当時、深夜の諏訪の森の中で決闘した当時の事を思い出させられたので……。
ところが、そうした樹の茂みの中を、だんだんと奥の方へ分入ってみると驚いた。決闘どころの騒ぎでない。
詳しい事実は避けるが、さながらに極楽と云おうか、地獄と形容しようか。活動写真あり。浴場あり。洞窟あり。劇場あり……そんなものを見まわしながら生汗《なまあせ》を掻いて行くうちに、やがて蛍色の情熱的な光りに満ち満ちた一つのホールに出た。棕梠《しゅろ》、芭蕉、椰子樹《やしじゅ》、檳榔樹《びんろうじゅ》、菩提樹《ぼだいじゅ》が重なり合った中に白い卓子《テーブル》と籐椅子《とういす》が散在している。東京の中央とは思えない静けさである。
私は何がなしにホッとしながら護謨樹《ゴムじゅ》の蔭にドッカリと腰を据えた。そこで今まで私の手を引いて来た女の顔
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