ているので一層物々しく、素晴らしく見える。太い毒々しいゲジゲジ眉の下に茶色の眼が奥深く光って、鼻がヤタラに高い。ダブダブの印度服に、無恰好なゴム長靴を穿いて一瞬間私を胡乱《うろん》臭そうな眼付で見たが、やがて頭をピョコリと下げて見せた。
 私は何だかここいらに伯父の巣窟がありそうに思えたので、その印度人に握手する振りをして十円札を一枚握らせると、印度人は私の気前のいいのに驚いたらしい。
 毛ムクジャラの両手を胸に当てて、最高級の敬礼をした。直ぐ背後《うしろ》に在る真鍮鋲の扉《ドア》を押して開いて、私を迎え入れるべくニッコリと愛嬌笑いをした。
 扉《ドア》の内側は豪華なモザイクのタイルを張詰めた玄関になっていた。そのタイルの片隅に横たえられた長椅子にタキシードを着た屈強の男が三人、腕組みをして並んでいたが一眼で用心棒という事がわかる。その中の一人が印度人の眼くばせを受けると慌てて立って釘のように折れ曲りながら私に一礼した。右手の地下室に通ずる扉《ドア》を開いて、私を導き入れると、ピシャンと背後《うしろ》から扉《ドア》を閉じた。
 私は青い光りに照されているマット敷の階段を恐る恐る降りて、
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