をシッカリと見た。
 女はオズオズと私の前にプレン・ソーダのコップを捧げていた。
 栗色の夥しい渦巻毛《うずまきげ》を肩から胸まで波打たせて、黄色い裾の長いワンピース式の印度服を着ている。灰色の青白い光沢を帯びた皮膚に、濃い睫毛《まつげ》に囲まれた、切目の長い二重瞼《ふたえまぶた》、茶色の澄んだ瞳。黒く長い三日月眉。細《ほっそ》りと締まった顎。小さい珊瑚《さんご》色の唇。両耳にブラ下げた巨大な真珠……それが頬をポッと染めながら大きな瞬きをした。何となく悲しく憂鬱な、又は恥かし気な白い歯の光りだ。印度人に相違ないが、恐しく気品のある顔立ちだ。
 私は指の切れる程冷めたいソーダ水のコップを受取った。
「君の名は何ての?」
「アダリー」
 女の両頬と顎に浮いた笑凹《えくぼ》が出来た。頬が真赤になって瞳が美しく潤んだ。私は又、驚いた。どう見ても処女である。コンナ処に居る女じゃない。
「いつからこの店に出たの」
「今日から……タッタ今……」
「今まで何をしていたの」
「妹のマヤールと一緒に日本の言葉習っておりましたの」
「どこに居るの、そのマヤールさんは……」
「二階のお母さんの処に居ります」

前へ 次へ
全55ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング