は、哈爾賓《ハルピン》の市外で、露人に誘拐されて満洲里《マンチユリー》に連れて行かれる途中、列車の中で射殺されて鉄橋の下に投棄てられていたという事実が報道されている。しかもこの報道を聞いた母の弓子は流産をした上に発狂して、何も喰わずに飢死してしまった。
 抜目のない伯父は妹の弓子に一万円の生命保険をかけておいたので、その金も自分のものとしてしまった。そうして私たち兄弟に、僅か千円ばかりの葬式の費用を投与えたきり、砂金の採掘権を支那人に売渡して、印度《インド》に行ってしまった。
 私の母親弓子が発狂した時に口走った事実を綜合すると、そうした伯父の非道な所業《しごと》は全部事実と思われるばかりでない。伯父がズット以前から雲月斎玉兎女史の隠れたる後援者であった関係から、この残忍悪辣な工作は二人の共謀の仕事と疑えば疑えたのであるが、その当時、弟はまだ幼稚《ちいさ》かったし、感付いていたのは私一人だったから証拠らしいものは何一つ残っていない。だから私は今日まで……否《いな》死ぬまで弟には打明けまいと決心していたのだ。
 しかし私の生命《いのち》がアト二週間しかないとなると、すこし話が違って来る。
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