いのかも知れないが、余計なところには一切|喙《くちばし》を容《い》れさせないのだから詰まらない事|夥《おびただ》しい。
吾々だって人間だあね。紛糾した事件の一端を聞くと、直ぐに事件の真相に突込みたくならあね。憎い犯人をタタキ上げてみたくもなろうじゃないか。それを犯人の足跡の鑑定だけさせられて追払《おっぱら》われたんじゃ、鰻丼《うなぎどんぶり》の臭いだけを嗅がされたようなもんだ。
悪く云う訳じゃないが、裁判官だの、警察官なんてものは、めいめいに自分の専門の法律とか、犯罪に対する第六感とか、多年の経験とかいう、所謂、犯罪関係の高等常識ばかりに凝《こ》り固まっているんだから、普通一般の社会に関する高等常識にはドッチかというと欠けている傾きがあるね。
たとえば若い女が自殺したと聞くと、直ぐに恋愛関係じゃないかと疑いをかける。ストライキを起すとスワコソ社会主義という風に、手近い経験から来た概念的な犯罪常識をもって、一直線に片付けて行こうとする癖があるようだね。だから、その概念が間違っていたら運の尽きだよ。事件は片《かた》ッ端《ぱし》から迷宮に這入って行くんだからね。
コンナ事件があるん
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