んだ。
 そいつを見ると疑問が一ペンに氷釈したよ。何でもない事なんだ。
 吾輩は直ぐに西木家を出て程近い警察の横の斎藤家を訪うた。刺《し》を通じて斎藤の後家さんに面会すると劈頭《へきとう》第一に質問をした。
「……大変に立ち入ったお尋ねごとですが、お亡くなりになった御主人は、お酒を呑み過ぎられますと、酒石酸と、重曹を一所《いっしょ》にお口に入れて、水を飲んで大きなゲップを出される習慣が、お在りになりはしませんでしたか」
 後家さんは痩せぎすの色の青い、多少ヒス的な感じのする品のいい婦人だった。可愛そうに最早《もはや》チャントした切髪姿で納まって御座ったが、吾輩の奇問には流石《さすが》にビックリしたらしく眼をパチパチさせたよ。
「まあ……どうして御存じで……主人はいつも御酒《ごしゅ》を頂きますたんびに重曹と、酒石酸を用いましたので……そうしないと二日酔をすると申しまして、御酒《ごしゅ》を頂きますたんびに……」
「それは夜中にお眼醒めになった時に、お一人でコッソリなさるのでしょう」
 後家さんはイヨイヨ驚いたらしく眼を丸くしたよ。
「……まあ……よく御存じで……」
「その酒石酸の瓶をチョッ
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