レラ》と似たり寄ったりの症状で、心臓麻痺を起して死ぬんだ。獣医さんが虎列剌《コレラ》と診断したのは無理もない。実は上出来の方かも知れないがね。
しかし本職の内科医の斎藤さんが、どうしてソンナに過量の吐酒石酸を服用したのか。よしんば酔っていたために分量を過《あやま》ったにしても……どうして吐酒石酸を使用する必要があったのか……又は、どうして飲まされる機会にぶつかったのか……といったような事実が吾輩には、どうしても想像出来ない。コイツには弱ったね。大酒を飲む人や、胃の悪い人の中にはここで……ハハア……そうかと首肯《うなず》く人が居るかも知れないが、天性の下戸《げこ》で、頗る上等の胃袋を持っている吾輩には、全く見当の付けようがないのだ。つまり大酒飲の習慣に対する高等常識が、その時の吾輩にはなかったんだね。
大約三十分間も、その瓶と睨《にら》めっくらをしてボンヤリ考えていたっけが……。
それから途方に暮れたまま、来るともなく台所に来て水甕《みずがめ》のまわりを見廻しているうちにヤットわかったね。水甕の上の杓子《しゃくし》や笊《ざる》を並べた棚の端に、重曹の瓶と匙《さじ》が一本置いてある
前へ
次へ
全18ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング