まわしました…………が…………。
 見るとアヤ子は、はるかに海の中に突き出ている岬の大磐《おおいわ》の上に跪《ひざまず》いて、大空を仰ぎながらお祈りをしているようです。

       *

 私は二足三足うしろへ、よろめきました。荒浪に取り捲かれた紫色の大磐《おおいわ》の上に、夕日を受けて血のように輝いている処女《おとめ》の背中の神々《こうごう》しさ…………。
 ズンズンと潮《うしお》が高まって来て、膝の下の海藻《かいそう》を洗い漂わしているのも心付かずに、黄金色《こがねいろ》の滝浪《たきなみ》を浴びながら一心に祈っている、その姿の崇高《けだか》さ…………まぶしさ…………。
 私は身体《からだ》を石のように固《こわ》ばらせながら、暫《しばら》くの間、ボンヤリと眼をみはっておりました。けれども、そのうちにフイッと、そうしているアヤ子の決心がわかりますと、私はハッとして飛び上がりました。夢中になって馳け出して、貝殻《かいがら》ばかりの岩の上を、傷だらけになって辷《すべ》りながら、岬の大磐《おおいわ》の上に這い上りました。キチガイのように暴《あ》れ狂い、哭《な》き喚《さけ》ぶアヤ子を、両腕
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