何かに費消されてしまったものとしたら、どうでしょうか。そんな風には考えられぬでしょうか」
「……………」
「……そういう風に三ツの出来事をバラバラにして、一ツ一ツに平凡な出来事として考えて行く方が、この事件を計画的な殺人と考えるよりも却《かえ》って常識的で、非小説的ではないでしょうか……すなわち事実に近いと思われはしないでしょうか」
「……そ……そうすると……」
と健策は眼を光らせながら、すこし狼狽したように身を乗り出した。
「そうすると何ですか……実松氏が発射した二発の散弾は、やはり本当の獣《けもの》か何かを狙ったものなんですね」
「イヤ……そこなのです」
と黒木は反対に反《そ》り身になった。さも得意そうに白湯《さゆ》を一口飲むと、悠々と舌なめずりをした。
「……私もそう考えたいのです。……が……そうばかりは考えられない別の理由《わけ》があるのです。実を云うとこれから先が私の本当の直感ですがね」
「……その直感というのは……」
と健策は益々身を乗り出した。同時に黒木はいよいよ反《そ》りかえって行った。
「……手早く申しますと実松源次郎氏は、その払暁《よあけ》前の雪の中で、或る恐
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