復讐
夢野久作
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)覆《おお》われて
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)百|燭光《しょっこう》のスイッチを
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)アヤツリ[#「アヤツリ」に傍点]人形のように
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昭和二年の二月中旬のこと……S岳の絶頂の岩山が二三日灰色の雲に覆《おお》われているうちに、麓《ふもと》の村々へ白いものがチラチラし始めたと思うと、近年珍らしい大雪になった。
その麓のS岳村から五六町離れた山裾《やますそ》に、この界隈《かいわい》での物持《ものもち》と云われている藤沢病院が建っていた。田舎《いなか》には珍らしい北欧型のスレート屋根を、古風な破風造りの母屋《おもや》の甍《いらか》と交錯さして、日が暮れても、ハッキリとした輪廓《りんかく》を、雪の中に描き現わしていたが、やがて、その玄関の左右から明るいのと、暗いのと、二いろの電燈が輝き出した。
向って右側の明るい窓は、この病院の薬局で、二段重ねの薬戸棚に囲まれた中央の調合台の前には、この家の養女として育って来た品夫《しなお》
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