が、白い看護婦服を着て、キチンと腰をかけていた。彼女の前のセピア色の平面には、きょう出された処方箋や、薬品の註文の写しや、新薬のビラの綴《と》じ込みや、カード式の診断簿等というものが、色々の文房具や、薬品などと一緒に一パイに取り散らしてあった。
 彼女の皮膚《はだ》は厚化粧をしているかのように白かった。その頬と唇は臙脂《べに》をさしたかのように紅く、その睫《まつげ》と眉は植えたもののように濃く長かった。髪毛《かみのけ》も同様に、仮髪《かつら》かと思われるくらい豊かに青々としているのを、眥《めじり》が釣り上がるほど引き詰めて、長い襟足の附け根のところに大きく無造作に渦巻かせていた。そうして、しなやかな身体《からだ》を机に凭《も》たせかけながら、切れ目の長い一重瞼《ひとえまぶた》を伏せて、黒澄んだ瞳を隙間《すきま》もなく書類の上に走らせるのであったが、その表情は、ある時は十二三の小娘のように無邪気に、又、ある瞬間は二十四五の年増女《としまおんな》のようにマセて見えた。又ある時は西洋の名画に在る聖母のように気高く……かと思うと、その次の刹那《せつな》には芝居の毒婦のように妖艶にも……。
 彼
前へ 次へ
全53ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング